国民について

アルゼンチン人は感情表現の豊かな国民です。話すときは言いたいことを強調するため頻繁にジェスチャー(身ぶり手ぶり)を使い、その種類も豊富で、まるで日本語における擬態語のようです。ジェスチャーがコミュニケーションにおいて重要な役割を担っていて、馴染みのない外国人が困ってしまうケースも見られます。

ここでは、四種類だけご紹介しましょう。

ボティーランゲージとコミュニケーション

上向きの手の平を後ろに向かって力強く払いあげるように、ひじから腕を曲げます。このジェスチャーは「もういいよ」「何を言っているんだ」と、相手の意見に同意せずに、さっさと議論を切り上げようとする意思を表します。

指先をあごの下に当て、爪を滑らせるように手をあごの前へと動かすジェスチャーは、「さあ」「全然知らない」という意味です。アルゼンチン人に質問をしてこの身ぶりをされたら、答えを得ることはできないということです。

このジェスチャーは普通、「オホ!(要注意)」のせりふともに使われます。「注意したほうがいい」とか、あるいは「あなたのしようとしていることはお見通しだ」という意味にもなります。

レストランでウェイターと目を合わせて、宙に何か書いているような仕草をすると、「会計をお願いします」という意味になります。せりふとしては、「ラ・クエンタ、ポルファボール(La cuenta, por favor)」と言って頼むことができますが、覚えられない場合はジェスチャーを使えば簡単です。

ボディランゲージについてもう一つ知っておくべき点は、物理的な距離の近さとボディータッチの多さです。打ち解けやすく開放的な国民性ですから、ハグをしたり相手の肩を手の平で軽く掴んだり叩いたり、頬にキスの仕草をすることは、親しみの表現と考えられます。このようなあいさつは、特に近しい関係でない相手に対して行われることもあります。日本人には馴染みのない習慣であることはもちろんですが、このような心のこもった表現をされたら、嫌な顔をしたりしないようにしましょう。  

また、アルゼンチン人はおしゃべり好きで社交的な性格なので、バス停やスーパーのレジの列にならんでいるときなど、見知らぬ人とちょっとしたおしゃべりをすることがよくあります。

外国人の方もすぐに仲間に入れてしまうので驚かれます。パーティーなどの集まりごとも大好きで、親しい人たちと音楽やお酒、食事を楽しむのを常としています。

心任せな気質から、おしゃべりの中で急に「アサード(バーベキュー)をしよう」などと、グループでの活動に誘われることもあるかもしれません。家族や仲間のように感じる扱いをされることもあるでしょう。外国からアルゼンチンへ来る方は、珍しい体験や美しい景色を求めて来ることが多いですが、たいていは、むしろ現地の人々との出会いを思い出として持ち帰られるのです。

もう一つ、スペイン語圏の習慣で珍しいのが「ピロポ(男性が見知らぬ女性にかける口説き文句)」です。アルゼンチン人は際どいピロポを言うことで有名です。あなたが女性で、街ですれ違う男性に何か言われたとしても、驚かなくてもいいのです。不快に感じられることもあるかもしれませんが、無視するのが一番です。

あいさつ

仕事の関係など、フォーマルな場でのあいさつとしては握手をすることが多いですが、アルゼンチンで最も一般的なあいさつは「ベソ/beso(キス)」(または「べスィート/besito」)で、相手が知り合いや友人でも、その場で紹介されたばかりの人であっても同じです。

やり方は、頬をお互いにくっつけるようにして、唇でキスのような音を一度立てます。(コリエンテス州は例外で、両頬に一回ずつするのが習慣です。) 唇を頬につけてもつけなくてもかまいません。 男性同士は他に握手や、ハグを行ない、さらに続けてべソであいさつすることもあります。

また、店などに入るときは、店員や係員に対して”オラ(Hola)”、と出るときは”グラスィアス。チャウ” (Gracias. Chau.)”などと声をかけるのが普通で、小さい店舗では特にそうです。顔見知りであってもなくても、あいさつをされたら、あいさつを返すのが礼儀です。

時間にルーズ

一般的にアルゼンチン人は時間に対して細かくないので、現地の人に遅刻をされても「失礼な扱いをされている」と感じる必要はありません。約束した時間の数分後に着く、ぐらいは日常茶飯事です。時間どおりにきちんと到着することのほうが珍しいくらいです。どの程度ルーズなのかというと、一般に15分ほどの遅れの許容範囲があります。その時間を過ぎても相手が現れなければ「遅刻だ」と考える、あるいは何か問題が起きたのだと推測することになります。

例えば現地ガイドを依頼される場合、出迎えの約束時間の数分前からホテル前でガイドが待機していないとしても、ご心配には及びません。遅刻ということではなく、何分も前から待機しておく、というのが現地の習慣ではないために起こることです。時間を少し過ぎても来ない場合は、ガイドが「15分の許容範囲」を考慮している可能性があります。

アルゼンチン人がよく使うことばに”Estoy llegando.”(直訳すると「今、着いているところ」の意味)があります。外国の方には考えられないことかもしれませんが、これは、遅刻しているけれど、今そちらに向かっている、と電話で知らせるのに使われます。

ユーモア

アルゼンチン人は傾向として、小さな問題でくよくよしない性格です。国としていくつもの危機を経験する中で、人生を明るく乗り越える技を得てきたのです。アルゼンチン人が、例えばあなたの服装とか、そういったものについて何かからかうような冗談を言っても、腹を立てないでください。

アルゼンチンのユーモアの特徴で、見ること聞くことに対して常に冗談を言うことが普通なのです。

情熱

アルゼンチン人は熱中しやすく自分の意見を言うことが好きなことから、よく言われる格言があります。「食卓では政治、サッカー、宗教の話はするな。」これら三つの話題ついては特に意見が割れ、口げんかになりやすく、時には友情を壊してしまうことさえあるからです。近年では、あまりこの格言を実践しない人が多いようです。

アルゼンチンサッカーのサポーターの熱狂ぶりも、外国の方の興味を引くところでしょう。スタジオでのサッカー観戦はおもしろい体験に違いありません。サポーターたちは、応援歌や、Tシャツ、帽子、ラッパなどを用意して、熱狂的な応援を見せます。「恋人や友人、お気に入りのバンド、宗教さえも変えられるが、ユニフォームは決して変えられない」という名言があるくらいです。

ワールドカップが始まると、政治的、思想的、宗教的な違いを忘れ、一丸となってアルゼンチン代表が優勝の栄光を手にできるよう願います。特にサッカー好きでない人すら、代表チームがプレーするときにはついついゴールを叫び、負ければ落ち込むのです。 サッカーファンともなると、あふれる情熱を抑えきれず、憂慮、歓喜、憤慨、色々な感情を露わにしながらチームの勝敗を追います。怒りの表現は時に行き過ぎとも言えるほどで、チームの負けが続いたり、良い試合を見せなかったり、審判の判定ミスがあったりすると、大声で叫んだり罵ったり、物を叩いたりすることもあります。 

サッカーの世界では、悪い気を払うためのまじないさえ使われます。ある物や行動に、魔法の力があると見なし、それを運気をあげて勝つために使うわけです。サポーターだけでなく、選手やコーチにもまじないを行なう人が多くいます。

終わりに、著名なサッカー監督マルセロ・ビエルサの言葉に、アルゼンチン人のサッカー熱を象徴する一節があるのでご紹介します。

「アルゼンチンではひいきのチームに起こることが、サポーターの日常にも鏡写しのように起こるんです。チームが勝てばサポーターのプライベートはバラ色で、負ければひどく落ち込み、サッカー以外の活動にまで影響してしまう。そのことが勝敗をより重大なことにしていて、指導陣の肩にも重くのしかかってくる。その重圧の下で生きていると、監督は代償として自身のプライベートに異常をきたすこともあるのです。」